WHO(世界保健機構)が、病気の世界的な統一基準である「国際疫病分類」の第11版で、「精神・行動の障害」の中に「ゲーム障害」を新たに盛り込む方針であることを明らかにしました。
ネットゲームの普及により「オンライン対戦」や「フレンドとの共闘」などが、誰にでも簡単に出来る時代となりました。
しかし昨今、現実での生活に支障をきたすほどゲームに熱中してしまう「ネトゲ廃人」と呼ばれる人たちが日本でも急増し、議論を呼んでいます。
内閣府のデータによると、ネットを利用する青少年の7割以上が何らかのネットゲームをプレイしており、自身がネットゲームに依存している自覚がある若者も少なくないと言います。
そこで今回は、WHO(世界保健機構)が「国際疫病分類」に加える「ゲーム障害」について、「ネトゲ廃人」と呼ばれる当事者たちの「生の声」と「知られざる想い」、そして現在有効とされている「抜け出す方法」について、最新情報をまとめてみました。
幼少期に特に強い影響を与え、進行も早いとされている「ゲーム障害」は、今後どのように考えていくべきなのか。
今や多くの人が他人事では済まされない事象である「ゲーム障害」について、今一度真剣に向き合って考えてみたいと思います。
■WHOが認定する「ゲーム障害」の最終草案
今回、WHOが認定する「ゲーム障害」についての最終草案が以下の通りです。
1.「ゲームをする衝動が止められない」
2.「ゲームを最優先する」
3.「問題が起きてもゲームを続ける」
4.「個人や家族、社会、学習、仕事などに重大な問題が生じる」
診断に必要な症状の継続期間は「最低12か月」
ただし幼少期は進行が早いとして、すべての症状に当てはまり、重症であれば短期間でも依存症とみなす方針であるとのことです。
■専門医師による意見
●7年ほど前からネット依存者の治療に取り組み、その危険性をWHOに訴えてきた、久里浜医療センター「樋口 進」院長。
1.「ネトゲ依存」に陥る理由について
「いくつかアルコールや薬物依存に共通している脳のメカニズムが指摘されています。」
「人間の理性の脳の機能が落ちてきて、自分をコントロールする力が落ちてくると言われています。」
2.「ネトゲ依存」に陥りやすいケースについて
「もともとゲーム時間が長いとか、家族がゲームを容認する傾向があるとか、親が不幸にして離婚されていてひとりのケースだとか、あと対人関係が元々上手でないとか、コミュニケーション能力に自信がないとか、元々衝動性が高い傾向にあるなど、そういう色んな要因が複雑に関係しています。」
3.問題視する理由について
「一番怖いのは何かというと、子供たちが主なターゲットであるという点です。」
「最悪の場合、彼らの人生が壊れてしまいます。」
「人生のスタートでゲームにハマって生活が乱れてしまって、学校を追い出されてしまったり、うちに引きこもってしまったりすると、彼らのそれからの人生どうなってしまうのかということです。」
4.「ネトゲ依存者」が急増した原因について
「インターネットがない時代のゲームはクリアするというゴールがあったので、そこまで深刻なゲーム依存者はいませんでした。」
「しかし、ネットを介して複数でプレイするオンラインゲームの普及で『ネトゲ依存者』は急増したと言えます。」
●これまで延べ240人のネット依存やゲーム依存者を受診してきた、周愛利田クリニックの精神保健福祉士「八木 眞佐彦」先生。
1.「ネトゲ依存者」の特徴・共通点について
「10代の方が圧倒的に多いです。」
「親が社会的ステータスの高い仕事に就いていることも多いです。」
「当事者の成績はどちらかと言えば良いのですが、親や親戚から『もっと良い成績を取れ』と心的な苦痛を味わっている方も多いです。」
■当事者の声
●豪華な一軒家に父親と二人暮らしをしており、現在は映像系の大学に通う「櫻井 慎太郎」さん24歳。
1.ネットゲームにハマったキッカケについて
「『ネットゲームが今熱い!』みたいな雑誌を読んで、中学受験受かったらパソコン買ってもらって『ちょっとやってみよう』みたいな感じで始めたら、のめり込んでいました。」
2.親との関係について
「大学受験控えてる時に本当はゲームしたかったけど、親が勉強しろってうるさかったので1週間ぐらい家出してネットカフェで泊まってゲームしてました。」
3.ネットゲームの世界について
「僕はもう本当ハマったらこれは『現実の世界が第2の世界』で『ネットの世界が第1の世界』と考えていたので、ゲームが上手くないと自分は生きている価値がないと思っていました。」
「有利に進めるためにお金もたくさん使っていました。」
4.課金について(ゲーム内での特典に現実のお金を使用すること)
「中学高校の6年間で200万以上は使っています。」(現在までのトータルでは500万以上)
「レアなモンスターやアイテムが出た時のアドレナリンが出るみたいな感覚が、もうたまんないですね。」
5.自身の現状について
「オンラインゲームは終わりが基本ないのがコンセプトなので、それで仲間たちとワイワイ終わりなき旅を楽しむっていう感じです。」
「何も残らないって言われたら正しいんですけど、そのやってる時間に楽しめて時間がつぶせたら僕はそれで満足しています。」
「本当の意味での『ネトゲ廃人』を理解しているので、自分ではそこまでではないかなとは思っています。」
※※※【補足】※※※
彼はアルバイト経験はなく、使っているお金はすべて親からもらったお小遣いです。
5年前に母親を亡くし、歯科医師の父親は多忙のため、家ではひとりで過ごすことが多いと言います。
誰にも気兼ねせず、ネットゲームに熱中出来る環境が、ある意味そろっていました。
●過去に「ネトゲ廃人」状態に陥った経験を持つ作家の「大島 薫」さん。
1.「ネトゲ廃人」から抜け出せたキッカケについて
「『このままゲームし続けたら生活出来ないな』と思った。」
「生きていくために働かざるを得ない状況になって脱却した。」
「私には支援してくれる親も親族も身近にはいなかった。」
2.生活習慣が乱れてしまうことについて
「ネトゲ廃人状態の時って、どうしても朝方に寝るようになってしまうんです。」
「『時間沸き』と言って、一定時間経つとレアなモンスターやアイテムが出現するんですが、どうしても自分が少しでも有利な状況にと思ってしまうので、必然的に他に人がいない深夜の時間帯を狙ってプレイしたりっていうことになってしまいます。」
■依存症から抜け出す方法
これまで延べ240人のネット依存やゲーム依存者を受診してきた、周愛利田クリニックの精神保健福祉士「八木 眞佐彦」先生。
先生が今までにカウンセリングを行ってきた経験と、回復されたご家族にまつわるお話が非常に参考になります。
各課題についての先生のお話をまとめましたのでご覧ください。
1.改善のために大切なことについて
「『ネット依存』『ネトゲ依存』について、実は当事者のご本人様とはお会いせず、その親御さんのカウンセリングによる教育・家庭環境の改善で、当事者が『ネット依存』から脱却したという例があるほど、環境との相互関係は極めて大切であると感じています。」
2.まず考えなくてはいけないことについて
「まず第一に心の痛みに共感しあえる環境を構築することです。」
「子どもにとっては『朝までゲームやりたくなっちゃった。』と言っても叱られない環境。そして親は『子どもが朝までゲームをやってしまった背景には何か学校や家庭で辛いことがあったのではないか?』『私たち夫婦が喧嘩をしょっちゅうしているのがつらかったのかな?』『心の苦痛があるんじゃないのかな?』と仮説を立ててあげることが大事です。」
「そうなるとお子さんもウソをつく必要がなくなるので『朝までやっちゃったけど叱られなかった。叱られなかったから今度はやりたくなった時点で告白しよう。』というようになっていきます。」
「おそらく現実生活の中での辛い経験からゲームに逃げ込み『ゲームを使い対処してギリギリ生きてきた』という言い方も出来るわけなんです。」
「当院の家族教室に通って回復されたご家庭のお母さんが、先日このようなことをおっしゃっていました。」
『私たち夫婦は勉強と夫婦喧嘩の毎日でした。そんな中この子はネットゲームがあったからこそ今まで生きてこられた。そして、むしろこのネットゲームがこの子を育ててくれた面もあったんです。』
「ギリギリ生き延びる手段として使ってきたのがネットゲームだったんだけども、人によっては益々孤立してつらくなってしまう。」
「つらくなるから益々ネットゲームをやってその度に借金をしたり体を壊したりってなった状態が『ネトゲ依存』と言っていいのかなと思います。」
3.治療方法について
「大事なことは、お子さんが過剰にゲームをやり過ぎても一方的に批判されたりしない環境を作ること。そしてご家族も悪気があって教育ママ、教育パパをやってきたわけではなく、愛情と責任感の強さゆえに過干渉してきたということを素直に発信すること。」
「過干渉を受け続けてきたお子さんはつらいからネットの世界に逃げ込む。これはリストカットで気分を変えるのと同じことです。」
「親御さんとお子さんの両方が決して批判されない環境にアクセスして、相談することが一番の治療法となります。」
「そういう意味で診断名化された結果、保健所や精神保健センターなどの公的機関に相談しやすい環境を構築出来たとなれば素晴らしいと思います。」
4.依存症という心の病について
「ネトゲ依存ではありませんが、女子にはとても多いケースとして、承認欲求を満たすために『SNS』に依存する方もいます。」
「ただこれは、両親から暴力や虐待を受けているような方が『SNS』で『いいね』をたくさんもらうと達成感を感じて、それによって自殺衝動を抑えられていたりします。」
「そのため、むしろ生き抜くための手段として役に立っている場合もありますので、『ネット依存』や『SNS依存』を一方的に批判することだけはやめて頂きたいと思います。」
「いずれにしても『やめなさい!』などと一歩的にシャットダウンするようなことは逆効果です。」
5.依存症を患っているという意味について
「実は楽しみながらゲームをプレイしている方が『ゲーム依存症』になることは少ないです。」
「一方でマイナスの感情を補おうとしてネットを使用している方は『ネット依存症』になりやすいです。」
「要するに何かしらの依存症を患ってしまった方は心にマイナスの感情が存在している可能性が高いと言えます。」
「なので依存症を患っているという方は『批判ではなく癒す対象』と認識してください。」
「そしてそのような窮屈な家庭を作ってしまった親御さんも何かプレッシャーを受けてされてきたことなので、親も責めてはいけません。」
「親御さんも当事者も癒してあげるような構造を作ることが、依存症回復の第一歩かと思います。」
■まとめ
いかがでしたか?
私には「八木 眞佐彦」先生のお話が非常に衝撃的なものでした。
先生のお話を聞いた後では「ゲーム」そのものが決して悪い存在ではないと感じます。
当事者にとって心の受け皿となったのが「ゲーム」であり、依存症に至る原因はそことは別のところにあるのだと考えさせられます。
今回のWHO(世界保健機構)の声明に対し、ゲーム業界からは「ネットゲームに中毒作用はない」との反発声明が出されています。
正直ゲームは「プレイする人にとって面白いものを」と考えて製作されているので、少なからずハマる、中毒になる人が現れること自体は決しておかしなことではないです。
問題は「楽しみながらハマってプレイする人」ではなく「現実から逃げ込んでプレイしている人」への『心のケア』にあると感じました。
わが子の異変にいち早く気づくことが出来るのは親御さんです。
そしてわが子の『心のケア』に一番の効果があるもの、それは親御さんのご理解だと思います。
歩み寄り理解しようとする心があれば、きっと良い方向へと環境が変化していくハズです。
今回の記事が、何か改善のための糸口となれれば幸いに思います。
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